452Uのレッドと無造作なグリーンの草花。
色彩のコントラストが互いを引き立てあう。
レッドの452Uと組み合わせたのは、オリーブやミモザ、カルメンシータが印象的なグリーンベースの草花。補色関係である赤と緑が互いの色を引き立てあっている。「“裏庭でガサッと詰んで、そのままバックパックに入れて帰ってきた”みたいな、ラフでリアルな感じをイメージしました」と壱岐さん。あえてきれいに切り揃えすぎず自然なバランスを保つことで、生まれながらに持つ草花の生命力を余すことなく表現している。
中学3年生からの8年間をアメリカ・ロサンゼルスで過ごしたという壱岐さん。アメリカでの学生時代は、日常的にアウトドアを楽しんでいたといい、学校へ行くときも山へ出かけるときも使っていたバックパックは、学生時代の自分にとって切っても切り離せない存在だったという。「学生時代は、学校の仲間とキャンプへ出かけることが多かったです。着替えの洋服とかを入れたバックパックに、山でその辺に落ちていたものとか、生えていた植物とか、気になったものを何でも詰め込んでいて、まさにこんな感じだったかもしれないです」。
231に生い茂るオンシジウムとカランコエ。
そこで自生したかのようなリアルを追求。
ワインの231とオンシジウム、カランコエのあまりにも自然な融合は、まるで山に置き忘れたボストンに花が自生したかのよう。花とバッグの色味や、葉とバッグの色味のくすみ具合を共通させることで、見事に調和が実現。「一見、異色の組み合わせのように思える花とバッグですが、やっぱりアウトドアをベースとして作られたバッグだからですよね、すごく自然に馴染んでくれました。ナイロン素材が丈夫で水を弾いてくれたので、お花をスタイリングするときもハラハラせずに安心して扱えました」。
まるで共生しているかのような自然な組み合わせを生み出す背景には、壱岐さんのポリシーが存在する。「お花をスタイリングするとき、決まったセオリーに従ってお花を選ぶということはないんです。私はルーツがお花屋さんじゃないので“こうでなきゃいけない”みたいなルールは特になくて。でも一つだけ言えるとしたら、そこに自生したような自然な美しさを生み出したい、というのは絶対ですね」。人間の手で作り出した美よりも、そこに生えているようなリアルな花に美しさを感じるという。「自然があって、私がある。だからお花を選ぶときは、必ず自然を活かすようなものを作るようにしています」。
4052EXPTと複数のピンク。
濃淡を組み合わせることで感じられる奥行き。
4052EXPTとアルストロメリア、カランコエ、西洋イワナンテンなど、数種類のピンク。同じピンクでも濃淡を交えることで、奥深いやわらかさが生まれる。また華やかで女性らしいイメージのあるピンクに、たくさんのグリーンを取り入れ、ボリューミーかつシンプルに生けることで、どこかユニセックスな雰囲気も漂う。「ポップな色味のバックパックから、こんな風にお花がどっさり溢れていたらすごく素敵ですよね。非現実的な感じがするけれど、実は最近渋谷PARCOの店舗では自分用にお花を買いに来てくれる男性も多くて。持っているバックパックにちょうどこんな感じで花束を入れて、自転車に乗って帰っていくんです。なんだか海外の映画から飛び出してきたみたいで素敵ですよね」。
今までとは違うニューノーマルな生活の中で、お花が生活の一部になった人も少なくない。最近になって“定番”や“ベーシック”というキーワードに回帰している気がする、という壱岐さん。「今年は例年と少し違ったオーダーを受けることが多かったです。やっぱりみなさんお家にいる時間が増えて、お花でちょっとでも気分を明るくしたい、という思いで来てくださるので、今まであまりなかったカラフルな花束を作ることが多くて。そんな風に色に囲まれて過ごしていたから、今年の私は珍しく落ち着いたベーシックな色味に強く魅かれて、そういうものばかり身につけています。色をたくさん取り入れるファッションを経て、原点回帰しているのかも」。<アウトドアプロダクツ>のバッグを私服に合わせるなら、452Uのベージュや黒など、色味を抑えたベーシックなアイテムを選びたいという。常に花と真剣に向き合っている彼女だからこその“定番”への渇望なのかもしれない。
彼女の手を加えることで、花本来の美しさがより際立つ。そのものが持つ本来の美しさを引き出す力は、壱岐さんの「自然を大切にする」という敬意から生まれているのかもしれない。学生時代に自然の中で遊び、海外生活で「何事にも縛られない自由な生き方」を目の当たりにしてきた彼女だからこそ生み出せる、自由でしなやかな表現から今後も目が離せない。