自分がいつ死ぬかわからないけれど、
遺されたモノはいいものであってほしい。
<ネクサスセブン>のものづくりの背景には“古着”というキーワードが欠かせないと思うのですが、今野さんがヴィンテージ好きになったきっかけを教えてください。
中学生の頃ですが「Boon(ブーン)」という雑誌を読んでいて、興味を惹かれたというのがきっかけです。高校生になると、地元の津田沼にあった「ガレージセール」という古着屋さんによく行くようになって。そこでおしゃれな先輩たちを眺めながら一気にのめり込んでいきました。当時古着を着ているのはちょっと怖そうな先輩たちで、ヴィンテージを着るのはある種のステータスのような感覚もありましたね。
今野さんはヴィンテージの魅力をどう解釈していますか?
古い服というのは、労力をかけてつくられています。効率のいいつくり方ではなく、手間暇かけられているというか。生地はもちろん、縫製にしても、ひとつひとつ丁寧につくり上げられている。いまはミスしたらB品という扱いだと思うんですが、そうではなく、いかにB品を出さずにつくるか、というのが昔の考えだったように感じます。
そうしたクオリティというのは<ネクサスセブン>でも大事にされていますよね。
人はやがて死を迎えますが、モノは遺りますよね。自分がいつ死ぬかわからないですが、遺された服はいいモノであってほしい。そういう責任感を感じながらものづくりをしています。クオリティがいいと信頼感につながると思うんです。これは服づくりの深いところですが、手を抜こうと思えばいくらでも抜けてしまう。それだったら、買ってから長年経っても手元に残しておきたいと思えるような服をつくりたい。そう思っていますね。
<アウトドアプロダクツ>の定番2アイテムと
<ネクサスセブン>らしさを感じる2アイテム。
<ネクサスセブン>は今回の<アウトドアプロダクツ>とのコラボレート以外にも、さまざまなブランドとアイテムを共作されています。他ブランドと関わる意義をどう考えられていますか?
自分でできるものづくりの範囲を超えられるのが、コラボレートの魅力だと思っています。“餅は餅屋”というように、カバンやシューズなどを専門でつくられているブランドの力をお借りすることで、クオリティ面はもちろん、自分では突き詰められなかった部分においてより魅力的なアイテムをつくることができます。自分自身そこから学ぶこともすごく多いですね。
コラボレートをする上で今野さんが大事にしているのはどんなことですか?
自分がそのブランドと接していたか、というのが第一条件です。そのブランドのアイテムを持っていないのにコラボレートをする、ということはやっていません。袖を通したり、足を入れたり、背負ったりしたという前提が必ずあります。そうした上で、そのブランドのアイコン的な定番をいじりたいというのがあるんです。
定番アイテムには“定番”になる所以があると思うんです。そこにデザインを入れるとなると、簡単なことではないですよね。
そうですね。今回もそれを強く感じました。デイパックとウェストバッグという<アウトドアプロダクツ>の定番2アイテムと、<ネクサスセブン>らしさを感じる2アイテムを展開したんですが、とくに定番品の方はその持ち味を消したくなかったので、すごく悩みましたね。
ご自身で使われていた<アウトドアプロダクツ>のアイテムはどんなものだったんですか?
ぼくが持っていたのは赤いデイパックで、シカゴブルズの刺繍が入ったものでした。あとはサンフランシスコにあった「カプランズ」というお店で、ケミカルウォッシュのような加工がされたウェストバッグを大量に見つけたことがあって。それをまとめて買って自分用に2つ残したあと、当時千葉でやっていた自分のお店で売っていました。その後、友人がどうしても欲しいというので、自分用に確保していたアイテムのひとつは譲ってしまったんですが…。
ミリタリーアイテムの魅力は、
ディテールに込められた意味やストーリー。
今回の4つのアイテムの共通点には“ミリタリー”というキーワードがありますが、今野さんはその魅力をどう考えていらっしゃいますか?
ミリタリーアイテムは、「ミルスペック」という厳しい軍の規格の上でつくられています。でもその軍規格が定められる前に、テストサンプルをつくって、何度も実験をおこなった後にようやくミルスペックとして認められるんです。命に関わるアイテムなので、そこまでしないとつくることができない。そしてそこから生まれた機能美も魅力的ですよね。それぞれのディテールに意味やストーリーがあるアイテムって中々ないと思うんです。
先ほど「持ち味を消したくない」と仰っていましたが、その部分でこだわったところはありますか?
今回のアイテムでは、<アウトドアプロダクツ>で実際に使われている生地を採用しています。生地を変えてブランドのタグをつけたら、ガラッと雰囲気が変わってしまったんです。なので<アウトドアプロダクツ>らしさというのは、この生地によるところが大きいと思います。
そうした<アウトドアプロダクツ>らしさがある一方で、<ネクサスセブン>として大事にしているクオリティを出すために、生産背景などもこだわられたんですか?
すべて日本の工場で生産しています。はじめは「MADE IN USA」がいいかなと思ったんですが、そこにこだわってクオリティが落ちるのはどうかと自問自答して。アメリカの工場はいい意味で大味なところがあるので、シンプルなつくりのアイテムとは相性がいいけれど、今回デザインしたアイテムはやはり品質や仕上がりのキレイさを重視したくて、国内でつくらせてもらうことにしました。
それぞれのアイテムに詰め込んだデザイナーのこだわり。
それぞれのデザインのこだわりについて教えてください。まずはデイパックから。
これは<アウトドアプロダクツ>の定番デイパック「452U」がベースになっています。最近は小さいバッグが主流になっているので、その中で違和感を生むためにあえてサイズをちょっと大きくしました。あとはストラップも特徴的。60~70年代につくられた「アリスパック」というベトナム戦争で使われたバックパックがあって、そのストラップのデザインにしています。背負ったときに正面から見るとミリタリー感がありますが、後ろ姿は<アウトドアプロダクツ>の良さが出ています。
アイテムのトップ部分には把手がふたつ付いていますね。これはどうしてなんですか?
ひとつはデイパックのディテールとしてもともとあったもので、壁にかけるときに便利な仕様です。ただ、置いてあるデイパックをさっと手に取りたいときに少し掴みづらいというのがあって。なので、デフォルトのディテールは残しつつ、あえてもうひとつ手に取りやすいものを付けました。
このウェストバッグも<アウトドアプロダクツ>の定番品ですよね。こちらはいかがでしょうか?
現行のアイテムを拝見したんですが、この小さいサイズはすでに廃盤になっているんですよね。なので、それをヴィンテージのサイズ感にギュッと小さくしました。ネットをつけたのは、実は4、5年以上前から考えていたアイデアで、<ネクサスセブン>の服でパーカのフードやポケットにネットを付けていたことがあるんです。それはヘルメットのカバーがモチーフになっていて、それをカバンで表現したくて。あとはフィッシング用のバッグでネットが付いているアイテムをよく古着で見かけていて、そのイメージも頭の中にありました。
こちらの巾着タイプのアイテムもネットがついていますね。
そうですね。これは<ネクサスセブン>でも展開しているアイテムをモチーフにしました。「パーソナルエフェクツバッグ」と呼ばれるもので、軍人が時計やドッグタグなどの小物を入れるためのバッグ。長財布を入れられる大きさがいいという要望があったので、自分のブランドのモノよりもすこし大きめにつくっています。
このショルダーバッグはいかがですか?
これは空軍のヘルメットバッグがモチーフになっています。それよりもサイズをひと回りコンパクトに、パソコンを入れやすくして現代的に使いやすくアレンジしています。実用的なサイズがポイントですね。
ドキュメンタリータッチだった従来とは異なる、
あえてアブストラクトに制作したムービー。
今回はムービーもつくられていますよね。そこにはどんなメッセージが込められていますか?
ムービーはすべて監督の石田さんにお任せしてつくってもらいました。石田さんがアブストラクトで抽象的なアプローチを得意とする方で、ぼくらはこれまでにドキュメンタリー系のムービーをつくることが多かったんですが、今回はあえて毛色を変えたことにチャレンジしたかったというのが理由です。抽象的である以上、こちらの要望を伝えるとアイデアが凝り固まってしまうと思ったので、道幅を広い状態にして、NGの要素だけをざっくり伝えてつくってもらいました。
旅情感というか、どこかロードムービーのような仕上がりになっていますね。
旅とバッグってリンクしているところもあるので、そこがユニークだなと思いましたね。好きな映画のひとつにジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』があるんですが、その雰囲気もあってとても気に入りました。それぞれのバッグが主人公みたいな見え方が良いですね。
自分の中で溜まっていたアイデアを
このタイミングでリリースできてよかった。
このアイテムを手に取ったお客さんに、おすすめの使い方を伝えるとしたら、どんなことを伝えたいですか?
無彩色なので、いろんなコーディネートに合わせやすいアイテムになっていると思います。とはいえ、きちんと主張もあるというか。いい意味で気兼ねなく使えるアイテムですし、語弊があるかもしれませんが、大事にデリケートに扱うよりも、ガシガシ使ってほしいですね。そうすることで生地のコシが抜けてきて、より雰囲気が出てくると思います。
今回のコラボレートを振り返って、ご自身の中でなにか気づきなどはありましたか?
改めて気づいたことはとくにないのですが、<アウトドアプロダクツ>のアイテムのデザインに関われて、それが人の手に渡り、これから残るというのは本当に嬉しいですね。定番にデザインを加える機会はなかなか得られないことですし。自分の中で溜めていたアイデアを、このタイミングでリリースできたというのもよかった。実はまだやりたいことがあるので、それは次のコレクションなどで具体化させていいければと思っています。
今後<ネクサスセブン>でやっていきたいことがあれば教えてください。
来年の秋冬でブランドをはじめてから20周年を迎えます。そのときに本をつくりたいと思っていて。自分の所有しているヴィンテージや<ネクサスセブン>のアイテムを整理して掲載する予定です。あとはKAWSとなにかコラボレートしたいですね。
それが実現したら今野さんがディレクターをつとめた<オリジナルフェイク>以来の共作ですね。
KAWSはアーティストとして一気にスターダムに駆け上がりましたよね。20周年をローマ数字で表すと「XX」になります。それはKAWSのアイコンとも重なるので、おもしろいものができあがると思うんです。もしやってくれたら最高ですよね。